『左川ちか全詩集』目次に戻る。  (クリックして下さい)


51

プロムナアド

 

季節は手袋をはめかへ

舗道を埋める花びらの

薄れ日の

午後三時

白と黒とのスクリイン

瞳は雲に蔽はれて

約束もない日がくれる

 

1934年(昭和9年)2月《闘鶏》に発表 23

 

*注

*1.プロムナード (Promenade) とは、フランス語で「散歩」あるいは「散歩の場所」(散歩道・遊歩道)を意味する語。

 

左川ちかの詩の中で、珍しくロマンチックな印象を受けました。

自然を描写する言葉は優しく、詩から想起されるイメージはとても明瞭です。

 

「白と黒とのスクリイン/瞳は雲に蔽はれて」

左川ちかは、身体が弱く、そして眼が悪かったことは、知られています。

左川ちかは、周りの景色がこのように見えたのかもしれない。

「約束もない日」と、それまで描写されていた自然と関係のない左川ちか自身のことがらが唐突に出て終る。

誰との約束だったのだろうか。

―――――――――――――――――――――

 

1934年、左川ちかは新島に小旅行しています。死の2年前です。

 江古田文学2006年№2 特集天才左川ちか 

左川ちか略年譜 クリハラ冉篇から引用

 8月下旬、詩人江間章子、「セルパン」編集長の三浦逸雄、朱門父子ら8人で、新島に船で一泊旅行した。ちかは、「私、小樽の、暗い海しか知らないから、こんな明るい海、びっくりしたわ……」と江間章子に語った。帰りはしけて、ちかは真っ青になりながら吐いた。水色のピケに白い線の入ったセーラー服ふうの服装をしたちかが旅の間中、伊藤整のことばり話していたことを三浦朱門は記憶しているという。